このページにたどり着いた読者の多くは、これから起業する予定で現在顧問税理士を探しているか、あるいは既に顧問税理士はいるもののその税理士に満足していないという方々かもしれません。多くの人が税理士選びに苦戦しています。同じ資格を持った横並びの税理士は数も多く仕事も属人的、素人目には能力も違いも見えづらく、料金が適正なのかも判断がつかない。差別化といえば節税や専門特化など。なるほど確かにこれでは自社にあった税理士を探すのはなかなか難しいのかもしれません。
ただ税理士の選び方にはコツがあります。これは嘘でも誇張でもなく、私は同じ税理士という職業だからこそどのような税理士が優秀か分かりますし、また自身が事業を立ち上げた経験からもどのような税理士が会社に必要なのかが分かるのです。ここでは皆さんに税理士を選ぶ際の3つの判断基準を解説します。これはどこの税理士のブログにも書かれていないような、税理士からすれば目から鱗の、経営者からすると至極真っ当な基準だと思います。
ほとんどの申告書には大きな差は生じない
まず初めに、中小企業を前提とすると、会社の取引から元帳や決算書を作りそれをもとに税務申告書を作った時、実は税理士同士で出来上がる成果物にほとんど差異はありません。接待交際費とするか会議費とするかなど細かい違いはあれど、会計税務にはある一定の着地点があり、企業の実態から計算している以上、そこから大きく乖離することは極めて稀です。
動くとすれば本来グレーで税法上認められない処理か、その年度だけ動かしているだけで通算すると変化がないような期ズレであるか、もしくは本来取れるはずの税額控除を見落とすなどの人為的ミスであることが多いのです。
もしこれが美容師であれば細かい毛先の仕上がりや手触り質感で顧客の満足度は大きく変わりますが、税理士にお願いしている無機質な業務では細かな違いでそこまでの満足度の差は生じないはずです。
この事実は実はどの社長も肌感覚で理解していて、だからこそ値段で割り切りたくなる気持ちがあるのでしょう。
中小企業の経営者のニーズと税理士の能力とのギャップ
多くの税理士は税務調査で指摘されないような正しい申告書を作ることや節税のアドバイスをすることが自分のバリューだと勘違いしている一方、中小企業の経営者が最も欲しいのは正しい申告書でも節税でもなく、将来の売上です。なぜなら経営者は常に将来に対する不安を抱えているからです。
今は上手くいっているけど来年はガクッと落ちるかもしれない。このままだといずれ落ちる、そうなる前に次の手を打たなければ、常にこんなことばかり考えています。
過去の税金など、安ければ良いに決まっていますが、出来上がる申告書に大差がないのであれば究極的には誰に頼んでも良いのです。
では将来の不安を解消できるだけのキャッシュを提供するのはどうだろうか?融資に強い税理士が優秀なのか?これも違います。キャッシュはビジネスモデルさえあれば簡単に集められます。そもそもキャッシュだけあっても不安は消えません。今度はキャッシュを失う不安が増えるからです。
そうではなく、これら企業の経営者に必要なのはビジネスモデルの確立とそれの実現に向けた専門的見地からのサポートです。そしてその達成に必要なものが今から挙げる3つの基準です。
税理士を選ぶときの3つの判断基準
①起業した経験がある
一般的な税理士に決定的に欠けているものがあります。それは「事業に対する嗅覚」です。
事業アイデアを考え、仮説検証し、単独で難しければビジネスパートナーを集め、資金や人など必要なリソースを集め、それらを投下し、KPIをモニタリングして、ようやく売上が立ちますが、このプロセスを経たことのない税理士では事業に対する嗅覚が効かないのです。
個人事務所の代表レベルなら税理士業という事業を立ち上げているためまだマシですが、税理士事務所の一社員ではいわゆるサラリーマンですので、この嗅覚が効くはずもありません。サラリーマンを何年も続けるより、どんな小さなビジネスでもゼロから自分自身で立ち上げる方がビジネスセンスは飛躍的にアップするものです。
具体的には、起業した経験のない税理士は「売上の上げ方」を知りません。
たとえばここにECをやっている会社があるとします。すでにビジネスモデルはある程度固まっている会社ですので、経営者が今考えていることは、ECというビジネスモデルの基本線は残しつつ、どうやったら売上のベースを高められるかということです。
それが新しい商品ラインナップの投下なのか、新しい販路市場の開拓なのか、あるいは代理販売なのかは分かりませんが、とにかく売上の増大です。利益は二の次です。売上さえ離陸してくれれば利益はあとでいくらでも残せるのを知っているからです。
ここで起業した経験のない税理士は奇妙なアドバイスをし始めます。
「社長、利益を圧迫しているので経費を削りましょう」
財務諸表は読めるので利益構造は理解しているのですが、売上が上がる仕組みを考えたこともない税理士は経費にしか目が向きません。経費を削るのは誰でもできる簡単なことですが、売上を生み出すのはその100倍は頭をひねる必要があります。何より経費は売上を生む源泉です。人件費や広告費を削ったら失速するのは経営者が肌感覚で1番わかっています。もちろん無駄な交際費や通信費は削って然るべきですが、そんなものは優秀な経営者なら日頃からやっていることです。したがって、
「それは気付かなかった!よし経費を削ろう!」
となる人はおそらく100人に1人もいません。
ビジネスへの嗅覚というのは経営者と対等に会話する上でまず最低限必要な土台です。これがないとすれば、トンチンカンなアドバイスをしてしまったり、少なくとも中小企業に対するサービスで高い満足度を得ることは難しいのではないでしょうか。
税理士の方が「それは税理士の仕事の範疇を超えている」と言うのであればBig4などに転職して徹底的に税務のスキルを磨き、税務だけに特化した高度な専門サービスを提供した方が良いでしょう。冒頭で申し上げたように、中小企業では出来上がる申告書に大差がないとすれば、顧客満足度の定義を履き違えているのは税理士の方です。
②その事業領域に対する圧倒的な情報量
次に検討すべき基準がその事業領域に対する圧倒的な情報量です。これを持っている相手であれば普段から事業の相談をできるようになります。イメージとしては、「これからの事業構想を話した時にさらにアイデアを返してくれる人物」です。
税理士に「今度こういう事業をやろうと思っています」と話した時にポカーンとしている相手ならまず辞めておきましょう。その事業に対してピンと来ていない証拠です。
たとえば
「今度Line botを使って遠隔診療のサービスを作ろうと思ってます。チャット問診のサービスがあったら使うと思いますか?」
と相談した時に
「その分野なら国内先行のスタートアップは〇〇と〇〇ですよね。イスラエルにも〇〇という会社があった気がします。確か〇〇はVCからシリーズAで3,000万ぐらい入れてました。ただチャット問診は医師側からするとチャットする時間が対面と比べて効率が悪いのと延々と続く感じになるのであまり受けないかもという個人的印象でした。その辺り一度叩いてみるのが良いかと思います。あとは患者側でそのまま医療費控除とか申請できる感じにしても面白いですね。お薬手帳系のビジネスにも派生できそうです。マネタイズはどうされるんですか?おそらく月額のサブスクリプションか送客手数料モデルになるので、両方のモデルで一度数字回してみますか。あとシナジーがありそうな事業をやっている社長さんがいるので、今度繋ぎますので飲み行きましょう。」
という回答が返ってきたらどうでしょうか?経営者としても税理士に壁打ちすることでどんどんアイデアが出てきそうです。
一方でその事業領域に対して全く情報を持たない税理士だとこうなります。
「承知致しました。Line botというのはアプリに該当するものでしょうか?アプリケーションは税務上無形固定資産に該当致しますので、法人税法施行令第13条に基づきソフトウェアに計上した上で償却が必要です」
このような通り一辺倒な税務知識しか返せない四角四面の税理士であれば、その人に頼む必要性はないわけです。この人に事業の相談をしても仕方ないな。といずれ情報の流れがストップして良い循環が生まれるはずもありません。
ビジネスは情報戦ですので、「情報を持っているか」というのは極めて重要です。これを日頃から収集する努力をしていない税理士は、残念ながら不適格と言えます。
自社がIT業ならIT業界の、建設業なら建設業界の、飲食業なら飲食業界の、美容室なら美容業界に精通した(あるいは同等の情報収集を日頃から努力している)税理士を選ぶのが良いでしょう。
③ 最新のテクノロジーを使いこなす若い税理士
意外に思われるかもしれません。年配のベテランの税理士の方が税務の知識もあって税務調査の経験も豊富なんじゃないの?と。しかしこれからの時代、ほとんどの文献や判例がインターネットで検索できるようになると単純な税法の知識量というのはどんどん価値が薄れていきます。
今は過去の判例データベースにも簡単にアクセスできますし、コンメンタールもネットで読むことができます。また国税のQ&Aや著名な学者の方の論文など、「検索力」という勘が働く若い人材は、正解にたどり着く確率やスピードで引けを取ることはないのです。
どうしても判断に迷う部分だけ時間をかけて税務当局に事前照会するという手段も可能です。いずれにせよ、平均年齢が70歳を超える税理士業界において、最新のテクノロジーを使いこなす若い税理士が能力で劣るということは少なくなってきているように思えます。
むしろこのような税理士は何倍も仕事が早く働ける量も多いので希少価値が高いのです。
月次訪問はSkypeで代替可能ですし資料共有はDropBoxはGoogleDriveで事足ります。Slackを使えばリアルタイムでコミュニケーションできます。SNSで会社の広報記事の拡散に協力してくれたり、最新の便利なサービスも紹介してくれます。
たとえば私の場合、Summary Pocketというスマホアプリから簡単に外部倉庫にダンボールを出し入れできるサービスをクライアントに紹介してあげると毎回喜ばれます。書類が邪魔だったから助かった!と。
未だにメールや電話をかけてきたり、ペーパーレスが遅かったり、ITに疎くスピード感が合わない税理士はこの先どんどん活躍のフィールドが狭まっていくでしょう。これは伝統的な士業全体に言えることかもしれません。
まとめ
このような判断基準に従うと、およそ理想的な税理士像が見えてくるのではないでしょうか。
①起業した経験がある
②その事業領域に対する圧倒的な情報量を持っている
③最新のテクノロジーを使いこなす若い税理士
大きな事務所だから良いといわけではありません。大きな事務所だとしても担当するのはその事務所の一職員ですし、その方が上記の基準を満たす人材かも分かりません。また大きな事務所より小さな事務所の方が機動力があり満足度が高いというケースも往々にしてあります。
税理士はその会社の重要な情報に接することのできる唯一無二のポジションですので、そのポジションに誰を置くのかというのは企業経営において極めて重要です。ネットで検索して一番安いところを選ぶというのは大きな過ちですし、自分で経理を処理するというのも得策とは言えません。
まだ理想的な税理士が見つかっていない、あるいは今の税理士に満足していない、という方は是非一度epicにご相談ください。きっとご満足いただけるはずです。